*アルカディア

 浜辺にしゃがみ込み、円を描くようにドーナツ状の穴を掘る。あえて、綺麗な円にはしない。完全性何て言う概念は捨て、いびつなものにする。これでステージが出来た。世界はここに完結する。

 海へと視線を移す。波はまだ先にある。あの全てを飲み込む淵が近づくまでには、まだ二時間ほど猶予がある。たったそれだけの時間に行われる興亡が予想できる。それで全てが無に帰るんだろう。

 人はこれを意味のない行為だと笑うかもしれない。しかしそれに何の意味がある? ただの自己満足? 上等だ。自己満足のない行為に存在する意味はない。

 さきほどの縁の中央にあるステージに砂を集め、想像した形を創造する。さらにそこを歩き回る人も想像する。自身の手で徐々に湿り気を帯びた砂を城へと形成させていく。できあがったところには渇いた砂を塗し、潮に負けないように祈る。粘土質が少ない砂はすぐに堕落し、何度も崩れようとする。しかし根気よく、何度も積み重ねた。これは歴史だ。この場所に起きた、あらゆることの記録の一つなのだ。

 城がほぼ構築された後、近くに塔を作る。高さは城より少し高くだ。何も良心だけではない。そこには監禁される悪夢を練り込んでおく。それはロマンス混じりだ。城より少し高くしたのはタロットカードの塔とバベルをイメージする。神の家、慢心と悪意と自戒が込められる。

 次に街を作り上げる。葛藤、公平性を積み重ねる。ここにはカオスを込める。決して統一されない抑圧がここにある。

 後は最後の仕上げとして国のエンブレムを城の中庭に刻み込んだ。集体はここに個体になる。

 これがこの世界の全てだ。

 数瞬のうちにここは無に帰る。誰もが笑うかもしれない自信を自身で作り上げた。

 全てが消える。けれど消えないものも、確かにここにある。