*chill

 僕はコーラが大好きだ。ああ、君がほしい。君が必要だ。君が全てだ。

 この血液は赤く、まるでコーラのパッケージのようだ。わかるかい? 心臓は鳴動し、脈拍と共に君が全身へと流れていくこの感覚。全身の血管という血管が、炭酸による刺激で沸騰していくようなこの不思議な状態。全身の不要物が全て皮膚上へと押し出されていく、この絶対的浮遊感。わからないかな? わかってほしいな。

 僕はコーラが大好きだ。別にコーラマニアとかそういったものではないのだろうと思う。けれど、僕はコーラが好きだ。世界の全てがそうとは言わないよ。コーラが飲めないと人生のほとんどを損しているとも言わない。が、たぶん2割ぐらい損してると思う。あの爽快感、全てを飲み干すほどの欲求を生み出す飲み物は他には存在しないだろうと思えるほどだ。

 別にコーラの種類にこだわりは無いんだ。ただ僕はコカコーラが好きというだけなんだ。これについてはもう子どもの頃から変化はない。次にペプシコーラ。これもおいしいけれど、ちょっと甘いかな。ダイドーコーラっていうのもあった。名前は忘れたけど、もう一個コーラのつくやつも試したことがある。けれどダイドーも、名称を忘れてしまったのもなんていうか残念な味だった。コーラなことはコーラなんだろう。しかし大切な何かを忘れてしまったのではないか、というような味だった。確かに甘い飲み物ではあるんだけれど、例えるなら砂糖の入っていないショーとケーキと言えるかもしれない。何かが足りないんだと思う。重要で、だけどシンプルななにか。大切な鍵を忘れてしまったんだろう。

 コーラ、もうコーラとかいいや。君はもう大切なものなんだよ。たぶんそれは僕だけにとってじゃない。きっと君を慕っている人はたくさんいると思うんだ。君を愛してやまない人はたくさんいるとおもうんだ。そりゃあ君は僕らにとっては有害なんだろう。むしろ、ほぼ得なことはないといってもいい。そこはタバコに似ているね。利益は超限定的だということだ。しかし、他に害が付きまとう。そんな存在なんだろう。けど、我々はそんな君を愛している。愛してしまっている。それは何故か? 君があまりにも魅力的過ぎるんだろう。

 いつか君が僕の前から消えてしまうことがあるかもしれない。それは君が僕のことを嫌うかもしれないし、僕が君の事を嫌うかもしれない。もしかするとただ単純に僕が君の事を支えきれなくて、共にいることができないなんて未来があるかもしれない。それは正直言うととても怖い。君を失う。僕の人生の2割を構成している君を失うなんてことをしたら、その2割からバランスが崩れ、たぶん色々なものが風化してしまう気がする。砂の城は崩れ始めたときからただの砂になってしまう。砂だろうが、城の形状をしていたら城なのだ。しかしそれは、たった2割崩れただけでただの砂になってしまう。もしかすると僕の人生の構成も、君を失ったというその事実だけでただの砂になってしまう可能性を含んでいる。それはとても怖い。涙が出そうだ。我慢なんてできようもない。君が滅んでしまうよりも、他の全てが滅んでくれたほうがいい。

 小学生の頃、誰もが夢を見ると思う蛇口からコーラが出るという世界。そんな世界を手に入れたい。そんな世界が出来れば、本当に世の中平和になると思うよ。誰もが泣かない世界になる。蛇口を捻れば、誰もが笑顔になる。ステキじゃない? それは色々な問題があってできないとなんだろうけど、いつか実現できるように僕は頑張るよ。無理だとか、くだらないとか、そんな現実論はいらない。タダ一つ確かな理想がほしい。その先に生まれた飲み物がコーラなんだ。その理想の産物と、新たな理想の間のギャップを埋めるのはたぶん、そういった人間の想いなんだと思う。欲望、だとしてもいい。素敵なことを求める欲望に対し、反対するようなやつは何のために生きてるんだ。

 ああ、君は本当に可愛い。その独特な唯一無二のフォルム。そのくびれはたまらないよ。理想的なぼん、きゅっぼん、としたボディ。それに高貴な足。べったりと地面に足をつけようとしない、高いヒールがまた魅力的だ。それが「特別な存在である」ということを誇っているようだ。そしてそのミステリアスな黒。半分透けていて、反対側が見えそうだ。しかし見えない。そこが、見えそうで見えないもどかしさ、という人間の情欲を掻き立てる。でも君は見た目だけじゃない! 圧倒的なのは君の中身にある。一瞬で人間を蕩けさせて、魅了してしまうその特別なオンリーワンの味。君は僕の口から流れて入り、食道を嚥下され、胃に到達する。そこから胃腸を介して体内へと一気に拡散する。僕らは君を消費して、歩いたり考えたりする。そこからまた色々な素晴らしいものが生まれ、その中にも君が含まれている。そして作り出された君はまた僕の中に戻ってくる。

 つまり、君はここで生まれ、ここに帰ってくる。そしてもう離されることなく、常にそばにいる存在として確固とした地位を手に入れる。

 だから僕は君を欲してやまない。君がいない世界は、僕がいない世界だ。