*世界の終わったあと

 回りにはガラクタしか落ちていない。

 まだ小さな君はただただ広がっている草原の一角で僕を見つける。君は手の平サイズでしかない僕のことを手に取ると、無言でじっと見つめてくる。僕は君に包まれながら、どくんと一度だけ脈打った。

 君は口を開き、何かを言葉にしようとする。けれど、それが音として発せられることはない。残念ながら、言葉というものは既に失われている。

 君は何を思ったのか、そばにあるガラクタで僕を組立始める。僕の胴体にはかつて洗濯機と呼ばれていたものが使われ、頭の代わりにバケツと呼ばれていたものが使われた。腕として竹箒と鉄パイプが、足は掃除機が二台繋がれた。そして僕は動けるだけの体は手に入れた。

 君はこんな不格好な僕によく懐いた。僕らの間に言葉はなく、必要もなかった。不思議と僕は君の言いたいことがわかったし、君も僕の求めていることはわかるようだった。

 長い間、僕らは一緒に暮らした。君は頻繁になにかを食べていたけれど、僕にそういった機会が訪れることはまずなかった。いつか君にその味を尋ねようかと思ったことがあったけれど、それは諦めた。君はどう見てもまずそうな顔をしていたからだ。

 沢山の太陽が沈み、沢山の月が昇った。君は月が昇ってから暫くすると静かになって動かなくなる。そしてじっと日が目を覚ますのを待つのだ。そしてそれを僕はじっと待つのだ。一度だけその間に君が食べれるものを探しに行ったことがある。しかし君がなにを食べれるのかわからなくて、結局とんぼ返りする羽目になった。残念ながら僕には口も鼻も、そしてそのさきにあるべきものも持っていないのだ。

 君はいつの間にか大きくなった。僕の体はそのままであり続けた。そして君は仲間を探し始めた。子孫を残すのは生物の目標である、と君は僕に訴える。僕はそれに肯定も否定もすることはない。僕は生物じゃないからだ。

 君と僕はこの世界を歩き始めた。何日も何日も仲間を探し続けた。しかし、それは叶うことないことを僕は知っている。

 僕の足である掃除機が、少し進むごとに変な音を立て始める。そう遠くない未来に、多分僕は歩けなくなるのだろう。そうしたら、きっと君は僕を置いていってしまうだろう。君の命は有限で、僕の命は無限である。君は歩き続けて僕は草原の真ん中で立ち尽くすのだ。

 たぶん、君の願いが叶わないことは君も知っている。若干の希望があれば縋りたいというのもわかる。しかし、世界は既に完膚泣きまでに終わってしまっていたんだ。君と僕がであったときには既に終わってしまったものだったんだ。

 それでも君は歩き続ける。僕はただ立ち続けるだろう。君の命はいつか終わりを迎え、それでも僕は立ち続けるのだろう。

 そして、次の終わりを歩くものを待ち続けるのだ。眠ることもできず、ただたんたんと待ち続けるのだ。

 世界は遠い昔に終わってしまっていたんだ。