□カノジョトノデイズ

 最近、めっきり寒くなったと思う。気づくと、もうすっかり冬なのだな。

 僕はコタツからのそりと体を出して、小走りでキッチンへ。ケトルに水を入れてガスコンロの火にかけた。クツクツとなるケトル。それを眺める僕。

 ふと、コーヒーが飲みたいと思ったのだ。

 戸棚からマグカップを取り出すと、インスタントコーヒーとミルク、シュガーを入れる。そしてそのまま、湯が沸くまで手をこすり合わせながら待つ。

 そういえば、どこかにクッキーがあったっけか?

 適当に近くの戸棚をあさりまわした。たぶん、どこかにあったはず。けど、どこにあるかはわからなかった。あれは彼女がまだここにいたとき、彼女がしまいこんだものだったからだ。こうしてひとりになると、どれだけ彼女のことを考えていなかったのかが良くわかる気がする、と思う。

 ま、仕方ない。自業自得というものだ。

「ねぇ、孝之、どうしたの?」

 彼女が僕の目を覗き込んできた。僕は首をよこに振る。なんでもないよ、という意味だ。

「そう、ならいいのだけれど。あなた、なんだか思いつめたような顔してたわよ?」

 そうかな? ……もしかしたら疲れているのかもしれない。なんせ、このところ働き詰めだからね。このまえなんて酷かった。休日返上で三日間も徹夜したよ。

「へぇ、それは凄いわね。……孝之、コーヒー飲む?」

 もらおうかな。

「それじゃあ、クッキーも食べるかしら?」

 彼女はコーヒーの用意をしながらそう聞いてきた。俺は首を横に振った。

 いいや、今はお菓子を食べる気分じゃないからね。……それよりも、コーヒーをとても甘くしてくれないかな?

「いいわ」

 そう言って彼女はコーヒーを作ると、リビングのソファで座る僕の隣へと来た。

「はいこれ、熱いわよ」

 うん、ありがとう。

 僕はひとくちだけコーヒーを飲む。本当に甘かった。舌がだらけてきそうに甘い。けど、今はその甘さがちょうど良かった。

「すこし、甘すぎた?」

 ううん、そんなことない。ちょうど良いよ。

 そこでピーっとケトルが音を立てて湯が沸いたことを知らせてくる。僕はその湯をカップに注いでコーヒーを作ると、さっきまで座っていたソファへと戻った。

 ひとくち飲む。酷く甘い味。いつか、飲んだ味だ、と思った。

 ふと、窓の外を見ると曇っていた空は真っ暗になり、ゆっくりと雪を降らせていた。雪は真っ暗な空中をふわふわと舞い落ちてきて、まるでひとりひとりの想いのカケラを連想させるような姿だった。

 僕はその光景を見ながらコーヒーに涙を飲ませた。

 彼女はもう、いない。