*ネイキッドライダー

 くだらない、阿呆らしい。できるわけがないだろ。

 アクセルを踏み付け、エンジンが唸りをあげる。カンカンに熱されたそれは、叫びを静かに胎動させる。しかし、俺はなにも身に付けてはいないし、乗っているわけでもない。

 お前ももってるだろ、エンジンぐらい。静かに脈打ってるだろ、確かに。

 馬鹿馬鹿しい。やる必要なんかない。そんな気持ちをかなぐり捨てる。なんなんだ、それ。何の意味があるんだ。まともな人間には憧れる。ただまともな人間が、なにを得ることが出来る? まともな人間として得るものはそんなに輝かしいのか?

 そんなのは嫌だった。少なくとも、俺は嫌だ。クソッタレ、ファッキン常考。

 俺も来年で三十路。同期は全員結婚し、平穏なリーマン生活。かたや俺はなんだ。四畳一間、風呂なしアパートでの赤貧生活。食事はたまにふりかけを混ぜた水。ふざけろ。

 鏡の前へ立つ。若い頃とは違う、年季を感じる体格。いくら羨んでも、昔に戻ることはない。

 お前ら、昔遠くを目指してあるいたことはないか? 見たことのない場所を目指したことはないか? そのさきに何があるのか知らないことで、胸を踊らせて向かったことはないか?

 俺はある。まだ小学生のときだ。ただ遠くのものを知りたくて、歩き続けたことがある。くだらない、きったねぇ街が続くだけなのによ、感動したこともある。手探りで進む好奇心は以上に楽しいものだ。

 しかし、俺らはいつの間にかそんなもんなくしちまった。安泰っつー、目に見える先の記された地図をどいつもこいつも目指してんだ。

 俺は嫌だ! そんなもん、いらない。俺らはいつの間にそんなごちゃごちゃしたもん手に入れようとしてんだ。必要なもんはいつだって俺らの中にあるだろ!

 玄関に立つ。後戻りはしない。戻ったところではきだめのようなアパートで動かない中年が一人見つかるだけだ。先に進んでも、なにもないがなにかは起こる。

 扉を開け、外に飛び出す。俺の戦いはここからだ。

「俺をみてくれええええええ!」

 夜の街を疾走する。全裸のコンプレックスは闇に静かに突き刺さる。