*パスタ

 美味しいパスタが食べたいなって君が言うから、僕らはパスタを食べに行くんだ。気象予報士は天気を曇りと予言し、確かに天気は曇りだけど、君が晴れやかな笑顔でそういうんだからそれに間違いはないだろう。

 だから僕らは出掛けたんだ。近所のファミレス、サイゼリヤまで。本当は専門店が良いのだろう。けど残念ながら、僕らはどちらもそんな洒落た店なんか知らなかった。仕方ないよね。

 店内にはいると窓際のテーブル席に座った。隣には子連れの家族が談笑しながら食べている。みんな頼んでいるものはプレートに乗っているものだった。子供が小学校であった出来事を一生懸命話している。父親が話すだけじゃなく、ちゃんと食べなさいと注意した。

 悪くない日曜だ。ただ窓の外は雨が降りそうになっていた。だからなんだというのだ。僕の前には君がいて、その向こうには暖かい家庭がある。他には何が必要なんだ? ハイテク機器も、くだらない御託もいらない。十分なものはここにあるんだろう。

 店員を呼び、君はカルボナーラを注文する。僕はペペロンチーノにした。ぴりっとした辛さが堪らないんだ、と僕は言った。君がクリーム系が好きなことぐらいは僕も知っていた。

 何も問題なんてない。ミサイルも飛ばない、人も死なない。そこまで嬉しいこともない。ただ何もない平和なこの日々が、曇り空にならなければ全ては丸くなるんだ。

 ファミレスの窓に水滴がつく。とうとう雨が降り始めたようだ。しかしカルボナーラが届けられ、それを口に運ばれたその時、確かにそこには晴れ間があったんだ。