*睡眠理由

 寝させてくれ、眠らせてくれよ。

 そう思って瞼を閉じても一向に眠りはやってこない。

 誰だって眠る必要はあるんだよ。僕らは生きていて、生きているものは眠らなければいけない。それはわかるだろう?

 けど僕の体はわかってくれない。顔を両手でごしごしと擦る。まだ、眠気は遥か彼方。

 部屋の中を静かに見回す。部屋の隅ではクロが丸まって静かに息をしている。胸が微かに上下し、そこに温かさを抱いている。

 僕はそっとベッドを抜け出し、クロの頭を撫でてやる。起こすわけにはいかない。今は僕らが目を覚ましていてはいけない時間なんだ。

 何故、生きているものは呼吸するのだろう。何故、我々は眠らなければいけないのだろう。眠りとはなんだろう。

 我々は死んだとき、眠るという。我々は毎日死んでいるのだろうか。生きているのだろうか。

 クロを撫でながら瞼を閉じる。答えなんて一生出てこない。瞼を閉じたまま、暗闇を睨み付ける。しかしそこには何もいない。

 掌に確かな体温を感じる。クロは、生きている。自分の胸に手を当てる。少しひんやりとしている。

 クロをもう一度撫でてやる。彼女は眠そうな声を出す。僕は自分のベッドに戻る。そして目を閉じ、夢の中へ没入する準備をする。

 果たして夢とは寝ている夢か将来か。どちらを見るかはわからない。そんなことはどちらでもよかった。僕はただ眠りを必要としているだけで、それ以外は不要なのだ。

 しかし、まだ睡魔は遠い。どうやら、僕は彼に嫌われたようだった。

 ただそれは全て夢であったことを僕はまだ気付かない。