*月はどこだろうか

 タバコの煙が宙に舞う。そこには息吹は存在せず、ただただそれを空気が蝕む。

 喫煙というものの利益は極まれた限定に選ばれたものだけが得ることができ、圧倒的大多数のその他には害を振り撒くだけである。

 だからなんだというのだ。視野狭窄、そんなものはわかっている。

 窓の外を眺める。空にはスモッグが広がり、月を覆い隠している。

 さて、月はどこだろうか。

 長くなりすぎた灰を空き缶の中へ落とす。とんとんと、タバコを指で叩く様子はまるでノックをしているようだ。

 空き缶の中でぱきぱきと何かが音を立てる。何かが殻を割っているようだ。

 あぁそうか。月はそこにいたのか。

 どこか遠くで猫が鳴いた。私はそれにいざなわれるよう、ゆっくりと目を閉じた。

 もう何も聞こえることはない。永遠に、聞こえることはないのだ。

 ただ月だけが、缶の中で音を立て続ける。